人生の節目ごとに出会った、忘れられないウイスキーたち

日々のこと

― 香りが呼び起こした、父の記憶と自分の変化



父の好きだったサントリーオールド

父が好きだったウイスキーは、サントリーオールドでした。

仕事終わりや週末、クラッカーにチーズやサラミを乗せたものをつまみに、水割りで飲んでいた姿を思い出します。

私が初めて給料をもらったとき、父にプレゼントしたのもサントリーオールドでした。

大人になって飲んでみると、驚くほど爽やかで飲みやすい。

喉を通って胃に落ちていくと、それまでの緊張がふっとほどけるのが分かりました。

あの頃の父も、こんな気持ちで飲んでいたのだろうか。

そう思うと、グラスの中の琥珀色が、少しだけ輝いて見えました。

② 初めて知った、ウイスキーの深さ

30代の頃、研修の合間に余市蒸溜所へ立ち寄りました。

そこで飲んだ余市10年は、それまで抱いていたウイスキーのイメージを静かに壊すものでした。

グラスの中の色を眺め、香りを確かめ、ストレートで少しだけ口に含む。

重厚で、スモーキーで、体の奥にゆっくりと広がっていく。

「ああ、ウイスキーってこんなに深いんだ」

そう初めて知った瞬間でした。


③ 香りが連れ戻した、遠い実験室の記憶

余市10年でウイスキーの奥深さに触れ、さらにその世界を知りたくなって、ウイスキーバーに通うようになりました。

横浜のあるバーで勧められたのが、カリラ10年。

グラスに鼻を近づけた瞬間、なぜか遠い昔の記憶がよみがえりました。

子供の頃、父の大学の実験室で嗅いだ、あの薬品の匂い。

不思議と嫌ではなく、むしろどこか懐かしい。

気がつけば、このクセの強いウイスキーにすっかりハマっていました。

どれくらい夢中になったかというと、カリラ10年をまとめ買いし、ついにはスコットランドのカリラ蒸溜所まで見学に行ったほどです。

(その旅では、ラフロイグ蒸溜所やアードベック蒸溜所にも足を延ばしました。)

④ 同じボトル、違う自分

もう、ウイスキーはカリラ10年さえあればいい。

そう思い込んでいた時期があり、しばらくウイスキーから遠ざかっていました。

久しぶりに飲んだカリラ10年は、どこかフルーティーで、それはそれで美味しい。

けれど、あの鮮烈な薬品の香りは、思ったほど感じられませんでした。

代わりに試したラフロイグ10年。

薬品臭が強いことで有名なその一本からは、昔よりもはっきりと、力強い香りを感じました。

味覚が変わったのか。

人生の感じ方が変わったのか。

同じウイスキーを飲んでいるのに、受け取る自分はもう昔とは違っていました。

⑤ 人生のページに挟まれた、香りのしおり

今はもう、特別な時に、しかも寝る時間よりだいぶ早い時間にだけお酒を飲む生活をしています。

それでも、これらのウイスキーの香りは、人生の風景と一緒に記憶の中に残っています。

お酒はただの飲み物ではなく、

人生のページのあいだに挟まれた「しおり」のような存在だったのかもしれません。

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