① フランスからスペインを歩く(サンティアゴ巡礼路)
ヨーロッパ各地から、スペインにあるキリスト教の聖地、サンティアゴ・デ・コンポステーラへと続く巡礼路があります。1000年以上の歴史を持つこの道は、今もなお多くの人が歩き続けています。
私も、いつか歩いてみたいと思っていました。そしてもう一つ、ピレネー山脈をこの目で見てみたいという気持ちがありました。
その二つの思いから、2018年4月、フランスのトゥールーズからスペインとの国境近くにあるオロロン=サント=マリーまで歩くことにしました。
そのときは、この旅で思いがけない出会いが待っているとは、まったく想像していませんでした。
② カンフランク駅との出会い
オロロン=サント=マリーからはバスで国境を越え、スペイン側のカンフランクで乗り換え、バルセロナへ向かう予定でした。カンフランクは、私にとってただの乗り換え地点にすぎませんでした。
しかし、バスを降りた瞬間、目の前に現れた光景に思わず足が止まりました。
ピレネーの静かな峡谷の中に、あまりにも場違いなほど巨大な駅舎が建っていたのです。
あとで知ったのですが、この駅は1928年に完成し、当時は世界最大級の駅舎だったそうです。鉄道の廃線で今は使われていませんが、古典主義とアール・ヌーヴォー様式が混ざり合ったその建物は、どこか気品を残しながらも、静かに時間の中に取り残されているようでした。
予備知識がまったくなかったからこそ、その光景は強烈に心に焼きつきました。
③ すべてを調べない旅も、悪くない
この後、バルセロナを訪れ、サグラダ・ファミリアも見ました。実際に目にすると、その建築の迫力には圧倒され、訪れて良かったと素直に思いました。
それでも、あまりに有名な場所であるがゆえに、どこかで「知っているものを確認している」という感覚もありました。
一方で、今回の旅とは別ですが、20代の頃、フランスからイタリアへ鉄道でアルプスを越えたとき、森の中にひっそりと佇む古城を見かけたことがあります。名前も分からないその城の風景は、今でもはっきりと思い出すことができます。
どちらも美しい景色でしたが、心に残り続けているのは、後者のほうです。
旅に出る前、私は見どころを逃さないように下調べをします。特に興味を持ったものは、徹底的に調べてしまいます。
それは間違いではありませんが、時に現地で「知識の確認」をしているだけになってしまうこともあります。
あえて全てを調べず、少しだけ余白を残しておく。
そのほうが、思いがけない出会いに心を動かされることがある――今回の旅で、そう感じました。
あの駅の名前を知らなかったからこそ、私はあの驚きに出会えたのだと思います。
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